
医薬品分子モデリング勉強会:トップページ(三次元化学構造観察)
はじめに
ICT技術の発展・浸透に伴い、分子モデリング(構造最適化)や三次元モデル生成が比較的低コストで可能な世の中になりつつあります。
平面的な化学構造式からでは、基本的な原子や分子(化合物)の大きさや原子間距離、三次元的な占有度合いが想像できないこともあります。
そんな時の一助になるように。。
また、医薬品に限ったことではないですが、化合物の構造式からはそれらの類似性が判断でき、医薬品の安定性、溶解性、薬理作用などについても推測することができます。
脱法ハーブなどは、それを逆手に取った悪い例の典型です。規制薬品と類似構造を有する有象無象の化合物を乱発し、規制の網を掻い潜るというもの。。
薬学を学ぶにあたり、医薬品の化学構造、特に三次元構造を見つめ、静電ポテンシャル分布やイオン化ポテンシャル分布などの分子表面情報を目にすることは、作用部位の理解や医薬品開発に重要な役割を果たしてくれるでしょう。
こうした化学構造や性質に関する学修は、医学部や看護学部にはない薬学部に特化したものですので、採り上げて行きたいと思います。
長期密着ゼミナール(課外学習)や大学院演習では、医薬品などの分子モデリングを体験して貰うことがある訳ですが、それらも整理・計算し直し公開していきます。
水と油について
- 分配計数として知られる水とオクタノールを基に、静電ポテンシャル分布を眺めながら親水性と親油性を理解する。
- 水(Water)
- 【CAS No.】 7732-18-5
- 【組成式】 H2O
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
E=-200647.6 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:1
Max(静電ポテンシャル):244.541652 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-184.161535 (kJ/mol)
- 【付記】
静電ポテンシャル分布(+244.541652 〜 −184.161535 kJ/mol)から、水と同程度に分極し、水素イオン(H+)供与体(酸)と受容体(塩基)としての指標を視覚するため、+240 〜 −180の“420 kJ/mol分”を12分割し、+性(プラス性;青系色)、−性(マイナス性;赤系色)、中性(緑系色)で性質を判断する。
⇒+性(プラス性;青系色)および−性(マイナス性;赤系色)が大半(+性:10.05 Å/全表面積:39.41 Å、−性:14.31 Å/全表面積:39.41 Å)。6分割だと、視認性は向上する反面、性質の違いを判断し辛くなる。
- 1-オクタノール(1-Octanol)
- 【CAS No.】 111-87-5
- 【組成式】 C8H18O
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
※MMFF最適化内の3番目の安定コンホメーション
E=-1026397.2 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:0.178
Max(静電ポテンシャル):222.361954 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-172.346009 (kJ/mol)
- 【付記】
水を指標に+240 〜 −180の“420 kJ/mol分”を12分割し、+性(プラス性;青系色)、−性(マイナス性;赤系色)、中性(緑系色)で性質を判断する。
⇒中性(緑系色)が大半(中性性:187.66 Å/全表面積:203.85 Å)。
カルボン酸酸性度(酢酸と安息香酸誘導体)
- 酢酸/氷酢酸(Acetic acid)
- 【CAS No.】 64-19-7
- 【組成式】 C2H4O2
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
E=-601492.37 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:1
Max(静電ポテンシャル):249.112475 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-160.178566 (kJ/mol)
- 【三次元モデル(PDF)】
酢酸/氷酢酸(Acetic acid)・棒球 / 酢酸/氷酢酸(Acetic acid)・CPK
- 【付記】
酢酸と安息香酸の酸性度(静電ポテンシャル分布を比較すると、酢酸(249 kJ/mol)と安息香酸(266 kJ/mol)から後者の酸性度が高いことが判断できる。)
- 安息香酸(Benzoic acid)
- 【CAS No.】 65-85-0
- 【組成式】 C7H6O2
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
E=-1104920.99 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:1
Max(静電ポテンシャル):266.487413 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-159.712753 (kJ/mol)
- 【三次元モデル(PDF)】
安息香酸(Benzoic acid)・棒球 / 安息香酸(Benzoic acid)・CPK
- 【付記】
酢酸と安息香酸の酸性度(静電ポテンシャル分布を比較すると、酢酸(249 kJ/mol)と安息香酸(266 kJ/mol)から後者の酸性度が高いことが判断できる。)
⇒フェニル基の共鳴効果により安息香酸のプロトンの脱離が促進されている。
安息香酸とサリチル酸の酸性度(静電ポテンシャル分布を比較すると、安息香酸(266 kJ/mol)とサリチル酸(288 kJ/mol)から後者の酸性度が高いことが判断できる。)
⇒フェノール性水酸基のプロトンがカルボニル酸素原子と水素結合することで、カルボキシル基のプロトンの脱離が促進されている。
- ニコチン酸(Nicotinic acid)
- 【CAS No.】 65-85-0
- 【組成式】 C7H6O2
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
E=-1147021.44 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:0.596
Max(静電ポテンシャル):268.039096 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-165.210861 (kJ/mol)
- 【三次元モデル(PDF)】
ニコチン酸(Nicotinic acid)・棒球 / ニコチン酸(Nicotinic acid)・CPK
- 【付記】
安息香酸とニコチン酸の酸性度
⇒静電ポテンシャル分布を比較すると、安息香酸(266 kJ/mol)とニコチン酸(268 kJ/mol)から両者の酸性度はほとんど変わらないことが判断できる。
⇒⇒フェニル基とピリジル基が与える効果には、(芳香族求電子置換反応に見られるほどの)大きな違いはないように見える。
⇒⇒⇒共鳴効果は酸性度に直接関与しておらず、誘起効果も限定的。
- サリチル酸(Salicylic acid)
- 【CAS No.】 69-72-7
- 【組成式】 C7H6O3
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
E=-1302443.28 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:0.998
Max(静電ポテンシャル):287.572718 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-133.194907 (kJ/mol)
- 【三次元モデル(PDF)】
サリチル酸(Salicylic acid)・棒球 / サリチル酸(Salicylic acid)・CPK
- 【付記】
安息香酸とサリチル酸の酸性度(静電ポテンシャル分布を比較すると、安息香酸(266 kJ/mol)とサリチル酸(288 kJ/mol)から後者の酸性度が高いことが判断できる。)
⇒フェノール性水酸基のプロトンがカルボニル酸素原子と水素結合することで、カルボキシル基のプロトンの脱離が促進されている。
⇒⇒ただし、上記の水素結合をしていないコンフォメーションの静電ポテンシャル分布の最大値も280 kJ/molとそこまで大きくは変わらない。
⇒⇒⇒フェノール性水酸基の誘起効果により、カルボキシレートイオンが安定化されることで酸性度向上?(【アスピリン(Aspirin)】参照。共鳴効果的には、カルボキシレートイオンは不安定化。)
- アスピリン/アセチルサリチル酸(Aspirin)
- 【CAS No.】 50-78-2
- 【組成式】 C9H8O4
- 【最安定コンホメーション(B3LYP 6-31+G*により構造最適化)】
E=-1703222.19 (kJ/mol)
Boltzmann Dist:0.798
Max(静電ポテンシャル):262.064721 (kJ/mol)
Min(静電ポテンシャル):-173.905736 (kJ/mol)
- 【三次元モデル(PDF)】
アスピリン/アセチルサリチル酸(Aspirin)・棒球 / アスピリン/アセチルサリチル酸(Aspirin)・CPK
- 【付記】
アスピリンとサリチル酸の酸性度(静電ポテンシャル分布を比較すると、アスピリン(262 kJ/mol)とサリチル酸(288 kJ/mol)から後者の酸性度が高いことが判断できる。)
アスピリンと安息香酸の酸性度(静電ポテンシャル分布を比較すると、アスピリン(262 kJ/mol)と安息香酸(266 kJ/mol)から後者の酸性度が僅かに高いことが判断できる。)
⇒サリチル酸のフェノール性水酸基がアセトキシ基になることで、酸性度は安息香酸程度にまで低下。
⇒⇒アセトキシ基の誘起効果が低下し、サリチル酸と比べてカルボキシレートイオンが安定化されない?
その他
- 酢酸と脂肪族カルボン酸の酸性度1
【リンク】
静電ポテンシャル分布や局所イオン化ポテンシャル分布の最大値を計算することで、カルボン酸の相対的酸性度を予測できる。すなわち、それら分布の最大値が大きいほど、その水素はより酸性であると考えられる。
- ベンゾジアゼピン類のコンホメーション
【リンク】
- たんぱく質構成アミノ酸のコンホメーション
【リンク】
酸性アミノ酸(および塩基性アミノ酸の塩酸塩)は静電ポテンシャル分布の最大値が高い傾向にある。
※但し、多数のコンホメーションが存在する場合、最安定コンホメーションの同分布だけでは判断できない(ズレが大きくなりうる)。
- TRPチャネル作動剤・拮抗阻害剤のコンホメーション
【リンク】
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