新しい研究室を開くにあたって:
 - 高きを仰ぎ、いけるところまで -

by 兵庫医療大学・薬学部・生体防御学 田中稔之日本免疫学会ニュースレター VOL 16 NO.2: APRIL 2008 掲載

平成19年4月より、兵庫医療大学・薬学部・生体防御学分野に着任いたしました。兵庫医療大学は神戸・ポートアイランドに開設の薬学部・看護学部・リハビリテーション学部からなる新大学で、兵庫医科大学との協力体制のもと、学部間の垣根を取り払った環境で次世代の医療者・医療科学者を育成することを使命としています。

今から24年前、私は「免疫で癌を治せるかもしれない」と漠たる憧れを抱いて、東北大学薬学部で橋本嘉幸先生が主宰される研究室の大学院生となりました。当時の橋本研究室には、大学院を終わったばかりの西村孝司先生・益子高先生がスタッフとして、八木田秀雄先生・千葉健治先生らが先輩として在籍しておられました。また他大学から学ばれる方々や医学部・歯学部の研究室との交流も盛んで、仙台学派とも呼べる人的クラスターがありました。私は抗体修飾リポソームを用いた癌の免疫化学療法に取り組みながら、門前の小僧として免疫学をより深く学びたいと考えるようになりました。

大学院修了後は、宮坂昌之先生が主宰される東京都臨床医学総合研究所(臨床研)・免疫研究部門に参加しました。宮坂先生にはその後18年にわたり、私のキャリアを支えて頂くことになりました。臨床研では、通堂満先生とともにcDNAがとれたばかりのIL-2受容体ß鎖(IL-2Rß/CD122)について解析しました。その結果、抗IL-2Rß抗体を胎生期に投与するとThy-1+dECが、成熟マウスに投与するとNK細胞が選択的に消失することなどがわかりました。またトランスジェニックマウスの解析から、全身に過剰発現させたIL-2Rßはリガンドのスカベンジャーとして働くことも推察されました。この時期、臨床研の周囲の研究室や本郷界隈の免疫学者集団がつくる東京学派に交わることができたもの大きな喜びでした。

その後、阪神大震災の前年に宮坂先生とともに大阪大学に異動し、新しい研究室の立ちあげに参加しました。大阪大学では免疫細胞の動態制御機構の解析に取り組み、まず生体細胞工学センターの松原謙一先生・大久保公策先生のBodyMapプロジェクトに加わり、高内皮細静脈(HEV)の遺伝子発現解析を行いました。当時はゲノム情報収集の最中で、チップ技術などもなく、自分たちで配列情報を読み取るためにスラブゲルのシークエンサーを日に二度・三度と泳動し、大量の3‘末端配列を収集して作成したHEVの遺伝子発現プロファイルは、自前の情報ソースとして大いに活用できました。また大阪大学では、免疫学とその関連分野に高いレベルで醸し出される大阪学派に学ぶ機会を得たことも大きな財産になりました。

新任地ではこれまでの経験を生かし、私を育てて下さったような研究室を目標に、「所属したことを誇りに思える研究室作り」をめざします。当面は免疫細胞の動態制御機構を切り口に、これまでの研究を発展させます。また自前の抗IL-2Rß抗体を用いてCD122発現細胞を除去したNOD/SCIDマウスを活用し、幹細胞移植系などの作製にも取り組む予定です。まもなく大型機器や研究室への機器導入が完了し、新年度からは教員スタッフも揃います。新設大学に必要な動物実験・遺伝子組換え実験に係る諸規定や委員会の準備など、いわばグランド整備活動にもエンジョイを心がけながら取り組んでいます。幸い、姉妹校の兵庫医科大学には岡村春樹先生・中西憲司先生・筒井ひろ子先生らの研究室があります。またキャンパスの近隣には先端医療センターを中核とする先端研究クラスターも控えています。ともかく、高きを仰ぎ、いけるところまでいってみようと思います。

これまでの間、多くの先生や共同研究者に支えていただきましたこと、改めて心より感謝申し上げます。免疫学会の皆様には今後ともどうぞよろしくご指導ご鞭撻の程、お願い申し上げます。

(日本免疫学会ニュースレター Vol 16 No.2: April 2008 掲載)